iPhoneをデザインした世界で最も有名で影響力のある工業デザイナーであり、世界最大の時価総額を誇る企業・アップルのデザイン担当上級副社長、ジョナサン・アイブ氏のデザインを生み出すプロセス、デザインにかける情熱が伝わる好著「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」をご紹介します。
倒産寸前のアップルを立て直した、アイブのデザイン
工業製品の「デザイン」とは何でしょうか?製品の表面を取りつくろうお化粧と勘違いされることが多いですが、「デザインとは人間の創造物の中心にある魂のようなものだ」とスティーブ・ジョブズ氏が語ったように、デザインは製品の本質であり、企業のあり方そのものです。
iPhoneをはじめとするアップル製品が世界中で愛され、かつて倒産直前の危機に直面したアップルが驚異的な利益をあげる要因は、アップルの製品が物語を持ち、ユーザーがパッケージを開ける瞬間から詳細な製造工程に至るまで、きめ細かくデザインされているからと言えるでしょう。そのプロセスの中心にいるのが、他でもないジョナサン・アイブ氏なのです。
初代iPhoneのプロトタイプ等の図版も必見!
1967年にイギリスで生まれたジョナサン・アイブ氏は、子供の頃からもの作りに興味を示します。その興味と才能を伸ばしたのが、銀細工職人で教師だった父のマイク・アイブ氏でした。マイクは、息子の興味を引き出し、進みたい方向に進ませることで世界的デザイナーを育てました。
本書では、アップル入社後のアイブ氏がデザインした代表作の写真も多く紹介されています。とくにプロトタイプのiPhoneの写真は、一見の価値があります。他にも、日本の文房具メーカー・ゼブラのためにデザインしたペンの図版なども掲載されています。また、アップルに加わったアイブ氏が最初にデザインした「ニュートン」誕生の舞台裏は、iPhone Maniaでもご紹介しています。
アイブがいなくなれば、アップルはアップルでなくなる!?
アイヴ氏をよく知るデザイナーは、「アップルにとってはスティーブの死よりジョニーが辞めるほうが深刻だ。ジョニーは替えがきかないから。あれほどの人間性、ビジョン、落ち着き、チームをひとつにまとめる力を持つデザイナーを見つけるのは不可能だ。もしジョニーがいなくなれば、アップルはアップルでなくなるかもしれない」とまで語っています。
昨年、ちょっとした手違いで、アップルのWebサイトにある役員紹介ページからアイブ氏の紹介が消えた時、アップルの今後を案じる声があがりました。
すべての働く人に読んでほしい一冊
アイブ氏は、才能あふれるデザイナーであるだけでなく、普段は穏やかな人柄ながら自分のチームを守るために全力を尽くす、良き管理職でもあります。
本書は、数々のアップル製品が世に出るまでのプロセスについて詳細に語られているだけでなく、アイブ氏の発想法や情熱が伝わるエピソードも数多く紹介されていて、経営者や、働くすべての人に読んでほしい一冊です。
なお、経営としてのデザインの重要性については、iPhone Maniaでもご紹介した「デザイン・マネジメント」でも語られています。
iPhone4sがアイブ氏の一番作りたかったiPhone?
iPhoneのデザインには 2年半もの時間と労力が注ぎ込まれていますが、先日デザイン特許を取得したiPhone4sが、アイブ氏が一番作りたかったiPhoneだったのではと思わせるエピソードも盛り込まれており、iPhoneユーザーなら自分の手元にあるiPhoneのデザインの背景に思いを巡らすこともできます。
ちなみにアイブ氏は先日、3月の発売が見込まれるApple Watchのデザインについて、「iPhone以上に困難だった」と語っています。
そのほか、大の車好きとしても知られるアイブ氏の愛車にまつわるエピソードも紹介されており、アップルファンでなくても楽しめる一冊です。
書籍情報:「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」、リーアンダー・ケイニ―(著)、関 美和(訳)、2015年1月、日経BP社、1,944円(印刷版)、1,800円(Kindle版)、Amazon
執 筆:hato