ドナルド・トランプ氏が次期大統領になったことで、同氏の語った「iPhoneをアメリカで作らせる」発言がにわかに現実味を帯びています。仮にアメリカで製造した場合、一体iPhoneの価格はいくらになるのかを試算した記事が注目を集めています。
考えられる3つのシナリオ
MIT Technology Reviewによると、ドナルド・トランプ氏が過去の発言どおりに、Appleに対してiPhoneをアメリカ国内で作らせるようにする場合、1.組み立てをアメリカで行う、2.部品の製造もアメリカで行う、3.部品の原材料までアメリカで賄う、の3つのシナリオが考えられるそうです。
シナリオ1:組み立てをアメリカで行う
調査会社IHSの試算によると、iPhone6s Plusの総コストは、アメリカでの販売価格749ドル(約74,900円)に対し、約230ドル(約23,000円)と言われています。
そのうち、組み立てコストはIHSの試算で1台あたり約4ドル(約400円)、シラキュース大学のジェイソン・デドリック氏の試算で1台あたり約10ドル(約1,000円)と見積もられています。
ところが、これをアメリカで組み立てるようにした場合、コストは約30~40ドル(約3,000~4,000円)跳ね上がるのだそう。労働者のコストが高いことに加え、輸送やロジスティクスでも費用がかさむためです。
もっとも、このシナリオでは部品を輸入して、アメリカ国内で生産するというだけなので、最終的な実売価格は5%の値上げにとどまるのではないか、と考えられています。
シナリオ2:部品もアメリカで調達する
現在、Apple製品のサプライヤーは766社存在しますが、そのうち346社が中国です。次が日本の126社、アメリカの69社、台湾の41社と続きます。ほぼアジア圏頼みですが、これをすべてアメリカで担当するとなると、どういうことになるのでしょうか。
実はそこまで価格が高騰するわけではないというのが、専門家の見立てです。
チップに関して言えば、「労働コストは、設備費用に比べれば些細な問題だ」と語るのはMITのデュアン・ボーニング氏です。彼によれば、どこでチップを作ろうと大してコストに違いはないのだとか。
また、Critical Materials Instituteのアレックス・キング氏も、どのみち半導体の工場は建造してから数年で時代遅れになってしまうので、「次世代の半導体を作るにあたっては、アメリカも含めて世界中のどこにでも工場を作れる可能性がある」と語ります。実際、工場向けの機械は大半がアメリカで製造されています。
こうしたことから、デドリック氏は部品もアメリカで製造した場合、さらにコストが約30~40ドル(約3,000~4,000円)上がると試算します。さすがにこのレベルになってくると、実売価格にも大きな影響が出るようで、最大100ドル(約1万円)ほどの値上げが予想されています。
シナリオ3:部品の原材料までアメリカで賄う
結論から言えば、さすがにこれは無理です。
iPhoneを構成している元素の大半はアルミニウムですが、残念ながらボーキサイトの主だった炭鉱はすでにアメリカに存在しません。よって、仮に原材料もアメリカで調達する場合、リサイクルされたアルミニウムで賄わざるを得ないのが実情です。
もっと悪いことに、レアアースにいたっては中国が世界に供給されている85%を生産しています。iPhoneを振動させたり、マイクやスピーカーに用いられている磁石のためのネオジウム、光学レンズに使われるランタンがそれにあたります。さらに、レアアースより高価と言われるハフニウムはトランジスタに使われますが、これもアメリカでは入手ができません。
言い換えれば、1つの国で原材料を揃えるのは不可能ということです。こればかりは、さすがのトランプ氏も諦めてくれるでしょう。
意外と価格は抑えられるが…
以前の試算では組み立てをアメリカ国内で行うと、iPhoneの価格は2倍以上に跳ね上がると言われていただけに、意外にもアメリカ国内で部品を調達したところで100ドル程度の値上げにとどまると聞いて、拍子抜けした方が多いのではないでしょうか。
もっとも、まだ存命だった頃のスティーブ・ジョブズ氏は、オバマ大統領になぜiPhoneをアメリカで作らないのかと問われて、労働者の賃金が安いからだけでなく、彼らのスキルレベルの高さや、工場やサプライヤーに柔軟性があることなどを理由に挙げています。
となると、たった100ドルとはいえ、妥協を許さず最高を求めるAppleが、素直にトランプ氏の要求に従うとは考えにくそうです。
Source:MIT Technology Review via iPhone情報研究所
(kihachi)