9月12日にAppleが行った発表は、すべてが順調というわけではありませんでした。iPhone XのFace ID(顔認証)を、ソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長のクレイグ・フェデリギ氏が試したときの一幕です。世界中の人間が固唾を呑んで見守るなか、2度もFace IDの認証に失敗し、パスワードを要求されてしまったのです。iPhone X随一の目玉機能を紹介するシーンでの大失態に、「実はAppleが宣伝するほど、Face IDは完成されていないのではないか」という憶測が浮上しています。
なぜFace IDは副社長の顔を認識しなかったのか
クレイグ・フェデリギ氏がFace IDの認証に失敗した途端、Appleの株価は163ドル(約17,930円)から159ドル(約17,490円)へと値を下げました。たまたま失敗した時に下落が重なったのかは分かりませんが、ともかくFace IDの認証がうまく行かなかったのは事実です。
なぜ、発表会でのデモンストレーションという失敗が「絶対に」許されない場で、Face IDは機能しなかったのか――ニュースサイトMacRumorsが、Touch IDのシステムと同じだと仮定して、興味深い仮説を立てています。
1.再起動したばかりだったか、48時間以上iPhone Xを放置していた
iPhoneでは再起動したり、48時間以上ロック解除を行わなかったりした場合、Touch IDで指紋を認証しようとすると、セキュリティー確保のため、パスワード入力を求められます。デモンストレーションに使うiPhone Xを48時間も放置するとは考えにくいのでしょう。とすると、登壇する前にクレイグ・フェデリギ氏に手渡された端末は再起動されたばかりだったのでしょうか。
MacRumorsはこの可能性は低い、と否定します。
なぜならばTouch IDでは、再起動直後にパスワードの入力を求められる際は「iPhoneの再起動後にはパスコードが必要です」という文章が表示されるからです。
しかし、デモンストレーション上でのiPhone Xに表示されていたのは「Face IDをオンにするにはパスコードが必要です」というもので、明らかに再起動後に表示される文章ではありませんでした。ちなみに、48時間以上ロック解除しなかった場合も「48時間以降はパスコードが必要です」と表示されます。
2.すでに何回も失敗していた
ここで、2つ目の仮説が登場します。すでに登壇前、クレイグ・フェデリギ氏は何度かFace IDの認証を試そうとして、失敗していたのではないか、というものです。ちなみに、「Touch IDをオンにするにはパスコードが必要です」という文章が現行のiPhoneで表示されるのは、指紋認証に連続して5回失敗した時です。
この可能性は高そうですが、実はFace IDは2回連続して認証に失敗するとパスワードを求める仕様となっています。したがって、実際には登壇中に2回試して失敗しただけでこの画面が出た、と考えるのが自然でしょう。
3.Face IDは完璧ではない?
ここから、さらに新たな仮説が導かれます。
少なくとも現時点では、Face IDは完成してはいないのではないか、という説です。
Appleは、Touch IDのミスマッチエラー率(誤認率)が5万分の1ならば、Face IDは100万分の1だ、と認証システムの完成度を誇ります。確かに、ただの写真でも認証してしまうよりかは、判定が厳しい方がいいのは確かです。しかし、他でもない副社長の顔を大事な場で認識できないとあっては、精度に問題があるという誹りを免れることはできないでしょう。
事実、右を見ても左を見ても絶賛だらけのレビューで埋め尽くされているなか、ニュースサイトTechRadarのジャーナリストは
正しい距離で(携帯を)手にしたとき、Face IDはちゃんと正確に機能した。しかし、我々は与えられた時間内で、アンロックの失敗も数多く目にすることとなった。時が経つにつれて顔を学習していくのだろうが、簡単に認証ができると確かめるには、しっかりと試してみる必要がある類のものだ。
と、Face IDがうまくいかない事象も往々にしてあったと冷静に指摘しています。
はたして、落ちた株価はただの偶然だったのか、悲観論者の杞憂に過ぎなかったのか、あるいは慧眼だったのか――答えは11月3日の発売で明らかとなりそうです。